その朝、岳人はコート上に咲く白い花に見とれていた。
そこは部員達に踏みつけられるコートの中であり、
実際、白い花など咲くはずも無く、ただ、整備された無機質なコートがあるのみで、
いわゆる、岳人がみた幻想と言えるのだが、
それを幻だと言い切ってしまうのには、あまりにも無粋といえよう。

なにしろ、コートに立ち、熱心に練習をしている日吉の口からは
彼が呼吸をするたびに、白い花が咲いているのだから。
冷え切った朝の空気の中で、彼の息が白い花びらとなってパッと咲いては消えていく。

岳人が、息が白くなってる様を見て、思わず白い花…と例えてしまったのは、
それほどまでに、日吉の凛とした空気が美しさをともなっていたからだろう。

しばらくぼけーっと、見とれていたら、岳人の存在に気付いた日吉が、
いつものように慇懃無礼な態度で話しかけてきた。
「見ているだけでは、練習にはなりませんよ、向日先輩」
そういって、ちょっと口の端をあげて、イヤミったらしく笑うトコなんて
どっかの俺様体質の誰かにそっくりだな…と、思いつつ、
岳人はそんなイヤミは無視し、
「なぁ、お前の周りに白い花がたくさん咲いてるぜ」
っと、素直に思ったことを言ってしまうあたりは、さすがと言うところか。
「は?」
「ほら、また、白い花びらがパッと咲いた!」
「な、何を言って…」
「あ!ほら、また!」
だいたい、この先輩とまともに話そうだなんて、
考えてるコト自体が日吉がまだ甘い証拠なのだ。
照れというものをしらない岳人は、
自分の言葉からも白い花を咲かせてるコトに気付かず夢中で語る。
「お前、自分で気付いてねぇの?お前の言葉が花びらになってるじゃんよ。」
「ご冗談を」
「冗談じゃねーって!ほら、息を吐いてみそ?」
みそ?って言われて、その指示に従うのは癪なのだが、
いかんせん、一応は先輩だ。言うコトをきかねばなるまい、と日吉は素直に息を吐いた。

「それが、白い花だっつってんの!」
どうだ?とばかりに得意気に指をさす先輩には悪いとは思いつつ、
これの何処が白い花なのか、理解に苦しむ日吉もまた率直な意見を述べる。
「ただ、息が白くなってるだけでしょう」
「うん、ま、そうなんだケドさ」

日吉に、そう言われると、確かにそうだ。
白い花が実際に口から咲くワケもないのは分かってる。
指摘されたら、それを、否定するだけの材料は何もない。
だからと言って、あっさり そうだ と認めてしまっては、
なんだか先輩としての威厳もなくなる気がするし、
せっかく日吉の周りに咲いて散った花を無下にしてしまう気がして、
「そうなんだケドさ、すっげ日吉ってば綺麗だから、白い花みたく見えるんだよ!
そうだ!なぁ、今日はお前の誕生日だろ?
その白い花びら達が俺からの誕生日プレゼントだと思ってよ、ありがたく受け取っておけ!」
と、腰に手をあて、何故か態度がデカくして、‐小さいくせに‐
しかも、自分で言っておきながら、恥ずかしくなったのか、
もしくは、興奮しているからか、それは分からないが、
顔を赤くしながら、そう叫んだ後、脱兎の如く部室に走り去っていった。

取り残された日吉はというと、
今日が自分の誕生日ってコトを岳人が知っていたのにも驚いたが、
それよりも、そんなワケの分からない誕生日プレゼントをもらったコトなど無く、
そもそも、言ってる意味の半分も理解出来ずに、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「はぁ〜」
思わず、ため息も出るってものだが、
そのため息にさえも、白い花びらが散ってる様を思い描いてしまい、
なるほど、これが、あの先輩からの誕生日プレゼントだと言うのなら、
こんな寒い日の練習でさえも、苦にはならないかもな…と、
ラケットを握る手にも力がこもる日吉だった。
岳人の言葉が無かったのなら、この先、凍てつくような寒さの中、
ただただ必死で寒さとの闘いを繰り広げたコトだろう。

その寒さを和らげてくれる先輩の一言は、まるで
その名前の指し示すとおり、ヒナタのような暖かさをともない、日吉を包み込む。
物など何ももらっていないのだが、
先輩からは、かけがえの無いモノをもらっているコトを日吉は自覚し始めていた。

いや、すでに、岳人自体が日吉にとって、かけがえの無い存在になってるのだが、
それを認めるのが日吉には怖くて出来ないのだ。

そう、相手の領域に飛び込むコトによって、一時の安らぎや幸せに喜びを感じ、
また、離れていくその瞬間に絶望を感じるような、
そんな気持ちを与えられているのにも関わらず…。

気持ちを暖めてもらう魔法の言葉をココロに秘めつつ、
日吉は無心でラケットをふり、練習に励む。
自分の口から白い花びらを確認するたびに、
顔が赤くなりそうになりながらも、おかげさまで寒さを感じずにいた日吉なのでした。


あ、失敗した。
ガックンから「おめでとう」の一言くらい言わせておくべきだったな。
ま、放課後とかに改まって誕生日プレゼントを持って行きますよ、ガックンは。
多分、しょーもないようなモンをプレゼントしますよ、ガックンは。
あー、それこそ肩たたき券じゃないケド、そのレベル。
一緒に遊園地に行ける券 とか、一緒にお昼食べれる券 とか。
お前が得なんじゃねーの?ってイキオイのプレゼント。
そいでも、日吉は嬉しいんですよ。

それと、ガックンが朝早く学校にいたのは、
日吉にそのプレゼントをいち早く届けたかったからなのですよ。
でも、朝の静けさに身を置く日吉があまりに綺麗だったので、
ソレを渡すきっかけを失ったのでした。

説明しなきゃ分からないような文章しか書けないって悲しいわ。。。

どっか、お昼とかのタイミングで、なんとか跡部さんから
日吉におめでとうと言ってあげて欲しいが、それは無理かなぁ。。。

いや、ガックンとかが部室で日吉にプレゼントを渡した後に、
跡部さんが部室にやってきて、そうだな…、
プレゼントなんかは用意して無くてもいい。
ただ、ココロからのおめでとう と、ありったけの愛 を日吉に。
多分、日吉のテニスに対する指導や、
日吉の部長と言う座の太鼓判を押すような台詞とかでいいのではないかと…。
それが、日吉にとって1番のプレゼントだよ、うん。

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